※11月13日の記事です。
「君の頭の中には何千もの物語があるはずだよ。そこにはない物語を探さないで」
幼なじみのアルヴィンが突然この世を去った。ベストセラー作家のトーマスは弔辞を書こうとするものの、どうしても言葉が見つからない。そこに死んだはずのアルヴィンが現れ、トーマスを心の奥深くへと誘っていく。子どもから大人になるまでの“真実の物語”が並ぶ本棚を前に、2人は自分たちの思い出と積み重ねた人生を振り返る。
トーマスとアルヴィンの絆を音楽とともに遡りながら描くミュージカル。韓国版の舞台映像を見た時に、温かくも切ない物語と美しい音楽に心を掴まれました。日本初演は海外にいましたが、2021年の再演(田代×平方)は観劇でき、「これは私の物語だ!」と強く感動したのを覚えています(そして大泣きして倒れそうに……)。身近な人が亡くなり、この作品のことを思い出していた矢先に再々演が決定。天使が現れたかのような奇跡をひそかに感じていました。
この作品は、私たちに人と人のつながりの大切さを思い出させてくれます。急速に変化し、つながりが希薄になりがちな現代社会。トーマスのように強くあろうとする人もいれば、アルヴィンのように置いていかれる寂しさに打ちのめされる人も。当たり前のものを得られず、憧ればかりを募らせる人もいます。しかし誰もが、別の誰かの存在によって支えられてきたはず。自分を理解し、一緒に笑ったり遊んだりした人がいたはずです。幼い頃に友情を育みながら、何度も別れを繰り返し、やがて永遠の別れに至る2人の物語は、人生に向き合う苦しみだけでなく、人とつながる喜びも思い起こさせてくれます。
登場人物はトーマスとアルヴィンの2人。楽器編成も少なく派手な演出はありませんが、観客は役者の息遣いや台詞、歌声に集中でき、そのエネルギーを直接受け止めることができます。また小規模な舞台だからこそ、登場人物の内面や関係性がより際立っており、心を揺さぶられます。
終演後のステージセット解説イベントにも参加。ステージセットは写実的/非写実的の2種類あり、今回は後者であること。小道具にスタッフの愛情が込められており、本棚には映画『素晴らしき哉、人生!』の写真やアルヴィンとトーマスが枝を投げる滝の写真が飾られていること。雪を降らせる演出は全部で3回あり、最後の雪はキラキラと輝いて見えること等を舞台監督の長沼さんに解説いただきました。また再演された時には違う視点で観劇できそうです。
蝶の羽ばたきのように、私の人生に変化をもたらしてくれた作品。そばにいる人や、もう会えない人と紡いできた1つ1つの“物語”を私も振り返ろうと思います。